2021年第二報
2021.06.30 北極海氷情報室、木村詞明(東京大学大気海洋研究所)

- 北極海の海氷域面積は9月の最小期に約408万平方キロメートルまで縮小する見込みです。これは一昨年より小さく、昨年より大きい値です。
- ロシア側の北東航路では8月2日頃、多島海を除くカナダ側の沿岸では7月15日頃に海氷が岸から離れ航路が開通する見込みです。
- ボーフォート海のアラスカ沖に古い氷が広がっており、これが最小期の9月まで残る可能性があります。


黄色実線は2019年、緑実線は2020年の同じ日(画像左上に表示)の氷縁(密接度30%の位置)を示す。

赤が例年より早く海氷がなくなる場所、青は遅くまで海氷の残る場所を示す。
この第二報では5月末の海氷の状況から7月以降の海氷分布を予測しました。第一報と同様に12月以降の海氷の移動を追跡する方法を用い、追跡期間を5月末まで延長して計算を行なっています。また、追加資料として5月末時点での海氷年齢分布の解析結果を掲載します。
海氷最小期にあたる9月10日の北極海氷域面積は、約408万平方キロメートルと予想されます。これは2019年より小さく、2020年よりも大きい値です。また、第一報の予測値418万平方キロメートル(第一報では当初367万平方キロメートルと予報しておりましたが、面積計算に間違いが見つかったため、修正しました)より、やや小さくなっています。
夏季の北極海氷域面積は最近数十年の間に急速に減少しています。2013年から2019年にかけてその減少傾向が顕著では無くなっていましたが、2020年にはふたたび大きく減少し、9月10日の北極海氷域面積は、約377万平方キロメートルと2012年に次いで二番目に小さい値となりました。今年の海氷域面積は2020年より大きいものの、過去3番目程度に小さい値まで縮小する見込みです。
ロシア側海域
海氷域の後退は、2020年より遅く、2019年より早くなる見込みです。海氷が大陸から離れロシア側の開放水面域がつながるのは、2020年と同じ8月2日頃と予想されます。
カナダ側海域
チュクチ海からボーフォート海にかけてのアラスカ沖海域でも、2019年と同時期に海氷域が後退します。北アメリカ大陸沿岸は、7月15日頃に開水面域がつながり、航路が開通する見込みです。また、生成から4年以上経過した海氷が広く分布しており、これがボーフォート海およびチュクチ海に残る可能性があります(下記「海氷年齢の分布」参照)。
海氷年齢の分布

一般的に年齢の大きい海氷ほど厚く、解け残りやすいと考えられます。海氷の年齢は、海氷の位置を時間を遡って追跡することによって推定することができます。図5は最近3年間の5月31日の海氷年齢の分布図です。2020年は生成から4年以上経った古い氷がアラスカ沖まで帯状に伸びており、これが9月の最小期まで残りました。今年は、グリーンランド、カナダ多島海沖から、ボーフォート海、チュクチ海にかけて同様の古い氷がより広く分布しています。この海氷が昨年同様に海氷最小期まで帯状に残ったり、はぐれ氷となって漂う可能性があり、注意が必要です。海氷年齢の解析に関するより詳しい情報は「北極海氷分布予報2021年第二報補足:海氷年齢の解析とそれをもとにした予測」をご参照ください。
この予測には人工衛星搭載の国産マイクロ波放射計AMSR-EおよびAMSR2による観測データを用いました。
おおまかな予測の手法については、2018年の第一報をご参照ください。
今年は昨年に引き続き、冬季の海氷の動きに加えて、2003年以降の海氷密接度の長期変化傾向も考慮に入れて予測を行なっています。
毎日の予測図は国立極地研究所の北極域データアーカイブでも見ることができます。
北極海の衛星モニタリングや海氷予報、ここで用いた予測手法についてのご質問は海氷情報室(
)までお問い合わせください。
この予測およびその基礎となる研究は、GRENE北極気候変動研究事業から始まり、北極域研究推進プロジェクトに引き継がれ、2020年度からは北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)で実施しています。