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2025年2月、全球海氷域面積が観測史上最小を記録

2025年3月28日
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

国立極地研究所(NIPR)と国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)注1の一環で、水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)の観測データをもとに、南極・北極の海氷面積の時間的・空間的な変化を可視化し、北極域データアーカイブシステム(ADS)注2のウェブサイトで公開しています。

2025年2月7日、北極と南極を合わせた全球の海氷域面積注3が約1534万3800平方キロメートルとなり、衛星観測史上(1979年から2025年までの47年間)最小を記録しました(図1)。これまでの最小記録は2018年の約1561万9500平方キロメートルでしたが(表1)、今回はそれを約27万5700平方キロメートル(日本の国土面積の約7割)下回りました。

図1:47年分(1979〜2025年)の全球(北極+南極)の海氷域面積の変化(1月1日〜12月31日)。金色・銀色・銅色の実線は1979年から2024年までの46年間で全球の海氷域面積の年間最小値が1、2、 3番目に小さかった2018年、2023年、2017年を、黒色波線は2010年代(2010〜2019年)平均を、青色実線は2025年(3月13日まで)を、細線はその他の年を示している。海氷域面積の計算には5日平均の確定値を使用した。




表1:全球海氷域面積の年間最小値を更新した2025年と1979年から2024年までの46年間におけるトップ3年(2018年、2023年、2017年)。()内の数値は全球海氷域面積に対する北極と南極の割合を表す。


全球の海氷域面積の内訳を見ると、冬を迎えている北極が約1289万9100平方キロメートル(全体の84%)、夏を迎えている南極が約244万4700平方キロメートル(全体の16%)を占めています(図2)。通常、北極の海氷域面積は3月に年間最大を記録します。2025年の北極の海氷域面積は、1月27日まで増加した後減少に転じ、この時期の北極の海氷域面積としては過去最小だった2018年を1月30日に下回りました。さらに、2月7日まで減少が続いた後、再び増加に転じたものの、約1330万平方キロメートル前後で推移しました(図2上)。一方、南極の海氷域面積は通常2月に年間最小を記録します。全球の海氷域面積が年間最小を記録した2月7日の時点でも南極の海氷域は減少を続けており、年間最小には達していませんでした。この時点での2025年の南極の海氷域面積は、2018年、2023年、2017年、2024年に続き、5番目の小ささとなっています(図2下)。



図2:47年分(1979〜2025年)の北極(上)と南極(下)の海氷域面積の変化(1月1日〜12月31日)。金色・銀色・銅色の実線は1979年から2024年までの46年間で全球の海氷域面積の年間最小値が1、2、3番目に小さかった2018年、2023年、2017年を、黒色波線は2010年代(2010〜2019年)平均を、青色実線は2025年(3月13日まで)を、細線はその他の年を示している。海氷域面積の計算には5日平均の確定値を使用した。


全球の海氷域面積が年間最小記録を更新した2025年2月7日の海氷密接度の空間分布(図3)を見ると、北半球では、オホーツク海、ベーリング海、バレンツ海及びラブラドール海の海氷域が2010年代平均と比べて小さい状態でした。この要因の一つとして、12月から1月にかけて北極海の大部分が暖かかったことが挙げられます注4。南極では、ロス海付近に海氷が残っているものの、ウェッデル海、アムンゼン海及びベリングスハウゼン海で2010年代平均より海氷が減少していることが確認できます。

図3:2025年2月7日の北極(左)および南極(右)における海氷密接度の空間分布。橙色実線は2010年代(2010〜2019年)平均の2月7日の氷縁(海氷密接度15%で定義)を表している。


全球海氷域面積は、北半球と南半球の各海域(図4)の海氷域面積の変動によって決定されます。図5は、1979年から2024年までの46年間における全球海氷域面積の年間最小値トップ3(2018年、2023年、2017年)と2025年に対して、全球海氷域面積の内訳の変化を示したものです。どの年も、北極では北極海盆・バフィン湾、ラブラドール海及びハドソン湾、南極ではウェッデル海及びロス海が全球の海氷域面積で大きな割合を占めていることがわかります。北極は海氷拡大期であるため、海氷域面積の増加傾向にある海域(例えば、オホーツク海やベーリング海)が、全球の海氷域面積の減少を抑える方向に働きます。一方、南極は夏を迎えているため、全体的に海氷後退が進む時期です。特に、ウェッデル海とロス海での減少が顕著です。2025年の全球海氷域面積は2017年や2023年と異なり(図5a,c)、1月初旬は2010年平均(黒色波線)に近い状態で推移していました。しかし、1月下旬に海氷域面積は急激に減少し、年間最小記録を更新する結果となりました(図5d)。

図4:19海域(北半球14海域、南半球5海域)の海域名。JAXA WEBサイト(JASMES for sea ice:https://kuroshio.eorc.jaxa.jp/JASMES/climate/index_j.html)からの図を加筆修正したもの。




図5:(a)2017年、(b)2018年、(c)2023年、(d)2025年の全球海氷域面積に対する19海域(北半球14海域N01〜N14:寒色系、南半球5海域S02〜S06:暖色系)の内訳の変化(1月1日から2月28日まで)。各日の19海域の海氷域面積の合計は全球の海氷域面積となる。2010年代(2010〜2019年)平均の全球の海氷域面積を黒色波線で表している。各年の年間最小記録日(2017年2月11日、2018年2月10日、2023年2月10日、2025年2月7日)を縦方向の点線で表している。海氷域面積の計算には5日平均の確定値を使用した。


次に、全球海氷域面積の年間最小記録上位3年(2018年、2023年、2017年)と2025年の海氷状態について、どの海域が寄与したのかをより詳細に調べるために、2010年代平均に対する偏差を海域ごとで分析しました(図6)。この解析では、北極と南極の海氷域面積は、図4に示した各海域の海氷域面積の合計値として計算している(小規模海域を除く)ことに注意してください。2017年と2023年では、主に南極の海氷域面積の減少が影響していました。2018年は、1月にアムンゼン海及びベリングスハウゼン海で海氷域面積が多かったものの、ウェッデル海とロス海の減少が全球の海氷域面積の縮小に寄与していました。一方、2025年は、1月にロス海の海氷域面積が2010年代平均よりも多く、ウェッデル海の減少も他の3年と比較すると小さかったことが確認されました。しかし、1月下旬から全球の海氷域面積の減少が加速し、2月7日に年間最小を記録しました。この時期の各海域の海氷域面積偏差を分析すると、ウェッデル海と北極(主にベーリング海、バフィン湾、ラブラドール海及びオホーツク海)の減少が寄与していることがわかります。

図6:(a)2017年、(b)2018年、(c)2023年、(d)2025年の全球海氷域面積に対する19海域(北半球14海域N01〜N14:寒色系、南半球5海域S02〜S06:暖色系)の内訳の変化(1月1日から2月28日まで)。各日の19海域の海氷域面積の合計は全球の海氷域面積となる。2010年代(2010〜2019年)平均の全球の海氷域面積を黒色波線で表している。各年の年間最小記録日(2017年2月11日、2018年2月10日、2023年2月10日、2025年2月7日)を縦方向の点線で表している。海氷域面積の計算には5日平均の確定値を使用した。


全球海氷域面積の年間最小値に対する北半球と南半球の各海域の寄与率を示すため、1月1日から年間最小記録日までの海氷域面積偏差を積算し、全球に対する各海域の割合を算出しました(図7)。どの年も南半球の海氷減少が全球海氷域面積の縮小に影響しており、ウェッデル海の寄与が顕著であることがわかります。一方、2025年の寄与率を見ると、ロス海は全球海氷域面積の減少を減速させる方向(寄与率−41%)に作用しています。それにもかかわらず、2025年に全球の海氷域面積の年間最小記録を更新した要因は、北極が海氷拡大期にあるにもかかわらず、例年ほど海氷域面積が拡大しなかったからと考えられます。特に、オホーツク海(20%)、バフィン湾、ラブラドール海(14%)、ハドソン湾(12%)の寄与率は他の3年と異なり少なく、全球の海氷域面積の減少を加速させる方向に寄与しました。

図7:2017年、2018年、2023年、2025年における全球の海氷域面積偏差(2010〜2019年平均からの差)の積算値に対する各海域の寄与率(%)。19海域(北半球14海域N01〜N14、南半球5海域S02〜S06)の寄与率の合計は100%となる。どの年も1月1日から年間最小記録日まで全球の海氷域面積は減少する傾向にあるため、ある海域の正の値(負の値)はその海域が全球の海氷域面積の減少を加速(減速)させる方向に寄与したことを意味する。例えば、2025年のウェッデル海の寄与率は35%であるが、これは全球の海氷域面積の減少を35%加速させる方向に寄与したことになる。海氷域面積の計算には5日平均の確定値を使用した。


以上の結果から、2025年の年間最小記録の更新は、南極の海氷減少(5番目の小ささ)に加え、北極が海氷拡大期にあるにもかかわらず、例年ほど海氷域面積が拡大しなかったことが主な要因と考えられます。今後の海氷域面積の変動を把握するためには、北極や南極といった広域的な視点だけでなく、海域ごとの変化にも注目し、気候変動の影響を引き続き監視する必要があります。


注1:北極域研究加速プロジェクト(ArCS II: Arctic Challenge for Sustainability II)
国立極地研究所が代表機関を務める国の北極域研究プロジェクト。自然科学、工学、人文・社会科学分野の研究者が参加し、 地球温暖化の正確な実態把握と仕組みの解明、将来予測に基づき、異なる研究分野や社会との連携、国際協力を通して、持続可能な社会の実現に貢献することを目指している。 実施期間は2020年6月から2025年3月まで。

注2:北極域データアーカイブシステム(ADS)
GRENE北極気候変動研究事業(2011年~2016年)や北極域研究推進プロジェクト(ArCS、2015年~2020年)およびArCS IIにおいて、南極・北極で取得された観測データやモデルシミュレーション等のプロダクトを保全・管理するためのデータアーカイブシステム。

注3:海氷域面積
通常の北極・南極海氷域面積の計算では、データ欠損による算出エラーを防止するため、複数日データの平均から算出しています。本記事では、5日平均の確定値を使用しました。 2日平均の速報値は、ADSをご参照ください。


注4:北極・南極の2024年12月の海氷情報(https://asic.nipr.ac.jp/info/2025-01-10-1/)参照。2024年12月の北極海は例年よりも暖かい状態で、この傾向は2025年1月も続いていました(図略)。