2020年第一報
2020.05.22 東京大学大気海洋研究所 木村詞明, 羽角博康

- 北極海の海氷域面積は9月の最小期に約385万平方キロメートルまで縮小する見込みです。これは2012年に次いで観測史上2番目に小さい面積です。
- ロシア側の北東航路では7月31日頃、多島海を除くカナダ側の沿岸では7月10日頃に海氷が岸から離れ、航路が開通する見込みです。

2020年の値は今回の予測値。
昨年までの海氷域面積は気象庁による集計値。

実線は過去二年分の同じ日の氷縁(密接度30%の位置)を示す。

赤が例年より早く海氷がなくなる場所、青は遅くまで海氷の残る場所を示す。
海氷最小期にあたる9月10日の北極海氷域面積は、約451万平方キロメートルになると予想されます。
これは同じ日の比較で昨年より4パーセント大きく、一昨年より3パーセント小さい値です。
夏季の北極海氷面積は最近数十年の間に急速に減少してきていましたが、2013年以降はその減少傾向が比較的落ち着いています。
しかし、昨年は9月18日に415万平方キロメートルまで減少し、過去2番目に小さい面積になりました。
4月末時点での多年氷の分布(図5)を見ると昨年に引き続き多年氷の面積が小さい状態が続いており、北極海の広い範囲が若い一年氷で覆われていることがわかります。
そのため、今年も予想より大きく海氷域が後退する可能性もあります(予測では多年氷の分布は考慮されていません)。
ロシア側海域に注目すると、例年と同様に東シベリア海では周辺海域より遅れて海氷域が後退します。
海氷が大陸から離れ、ロシア側の開水面域がつながるのは、昨年より遅い8月1日頃と予想されます。カナダ側海域では、アラスカ沖で例年より早く海氷域が後退します。北アメリカ大陸沿岸は、7月11日頃に開水面域がつながり、航路が開通する見込みです。



去年に引き続き今年も多年氷の領域が小さい。
この予測には人工衛星搭載の国産マイクロ波放射計AMSR-EおよびAMSR2による観測データを用いました。
おおまかな予測の手法については、2018年の第一報をご参照ください。
今年は冬季の海氷の動きに加えて、2003年以降の海氷密接度の長期変化傾向も考慮に入れて予測を行なっています。
毎日の予測図は国立極地研究所の北極域データアーカイブでも見ることができます。
北極海の衛星モニタリングや海氷予報、ここで用いた予測手法についてのご質問は海氷情報室(sea_ice@nipr.ac.jp)までお問い合わせください。
この予測およびその基礎となる研究は、GRENE北極気候変動研究事業から始まり、北極域研究推進プロジェクトに引き継がれ、2020年度からは北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)で実施しています。