2021年第一報
2021.05.25 北極海氷情報室、木村詞明(東京大学大気海洋研究所)
2021.06.30 追記:第一報公開後、最小面積計算にケアレスミスのあることが、分かりました。正しくは、約418万平方キロメートルです。いくらケアレスミスとはいえ、予報を後から書き換えるのは良くないことなので、本文は修正しません。最小面積値と図2が間違いであることにご注意ください。

- 北極海の海氷域面積は9月の最小期に約367万平方キロメートルまで縮小する見込みです。これは昨年の最小時とほぼ同じ面積です。
- ロシア側の北東航路では8月2日頃、多島海を除くカナダ側の沿岸では7月15日頃に海氷が岸から離れて航路が開通する見込みです。

昨年までの海氷域面積は気象庁による集計値。

黄色実線は2019年、緑実線は2020年の同じ日(画像左上に表示)の氷縁(密接度30%の位置)を示す。

赤が例年より早く海氷がなくなる場所、青は遅くまで海氷の残る場所を示す。
夏季の北極海氷面積は最近数十年の間に急速に減少してきていましたが、2013年から2019年にかけてその減少傾向が顕著ではありませんでした。しかし、2020年の海氷最小期にあたる9月10日の北極海氷域面積は、約377万平方キロメートルと2012年に次いで二番目に小さい値となりました。2019年、2020年と海氷域は減少しており、今年の海氷面積は2020年度と同程度の小ささになる見込みです。
ロシア側海域
海氷域の後退は、2020年より遅く、2019年より早くなる見込みです。海氷が大陸から離れロシア側の開放水面域がつながるのは、2020年と同じ8月2日頃と予想されます。
カナダ側海域
チュクチ海からボーフォート海にかけてのアラスカ沖海域でも、2019年と同時期に海氷域が後退します。北アメリカ大陸沿岸は、7月15日頃に開放水面域がつながり、航路が開通する見込みです。
2020年は多年氷の影響によりボーフォート海に海氷が残りました。今回の予報では、ボーフォート海は2020年に比べ、海氷域が後退していくと予想されますが、多年氷の影響を加味していないため、カナダ側海域の海氷分布については2020年と同様の分布になる可能性もあります。多年氷の分布の解析結果に関しては、6月下旬から7月初めにかけて公開予定の第二報でお伝えします。
この予測には人工衛星搭載の国産マイクロ波放射計AMSR-EおよびAMSR2による観測データを用いました。
おおまかな予測の手法については、2018年の第一報をご参照ください。
今年は昨年に引き続き、冬季の海氷の動きに加えて、2003年以降の海氷密接度の長期変化傾向も考慮に入れて予測を行なっています。
毎日の予測図は国立極地研究所の北極域データアーカイブでも見ることができます。
北極海の衛星モニタリングや海氷予報、ここで用いた予測手法についてのご質問は海氷情報室(
)までお問い合わせください。
この予測およびその基礎となる研究は、GRENE北極気候変動研究事業から始まり、北極域研究推進プロジェクトに引き継がれ、2020年度からは北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)で実施しています。