2025年第二報
2025.06.17 木村詞明(東京大学大気海洋研究所)、北極海氷情報室

- 北極海の海氷域面積は、9月に約444万平方キロメートルまで縮小する見込みです。
- ロシア側の北東航路は8月下旬、多島海を除くカナダ側では7月下旬に航路が開通するでしょう。




近年、太平洋側のボーフォート海、チュクチ海、東シベリア海周辺では、夏になっても海氷が残りやすくなっています。昨年は9月の最少期にもチュクチ海のロシア側に多くの海氷がとけずに残りました。これは、この海域にとても厚い海氷があったためと予想されます。一般に海氷は二つの理由で厚くなります。ひとつは、海が冷やされて凍っていくことにより厚さが増すこと、もうひとつは海氷に力がかかって変形すること(海氷どうしが乗り重なったりすること)によってです。海氷の変形の起こりやすさの指標として、図5に昨年と今年の1月から5月までの5ヶ月間における海氷の剪断(水平方向のずれ)の蓄積を示します。昨年はチュクチ海で値が大きく、この海域の海氷が強い変形を受けていたことがわかります。今年も東シベリア海とチュクチ海のロシア側で8月後半か9月はじめ頃まで海氷が残る可能性がありますが、昨年に比べると剪断の蓄積が小さく、昨年ほど多くの海氷が残ることはないと予想されます。
この予報の海氷分布は、5月末時点の海氷の厚さをもとに計算しました。2007年から2024年までの観測データを使い、各年の「5月31日の海氷厚」と「7月以降の海氷密接度(海面が海氷で覆われている割合)」との関係を調べました。その結果、5月末に海氷が厚かった場所では、夏になっても海氷が解け残りやすい傾向があることがわかりました。この傾向にもとづいて、今年(2025年)の5月31日に観測された海氷厚から、7月1日以降の海氷密接度を予測しています。
予測に使用した海氷厚は、人工衛星搭載の日本のマイクロ波放射計AMSR-EおよびAMSR2の観測値から、独自の手法で推定したものです。この海氷厚データは、近日中に国立極地研究所のADS(Arctic Data archive System)から公開される予定です。
毎日の 予測図 及び 海氷齢(日齢、年齢)は国立極地研究所の北極域データアーカイブシステム(ADS)でも見ることができます。
北極海の衛星モニタリングや海氷予報、ここで用いた予測手法についてのご質問は海氷情報室(
)までお問い合わせください。
この予測およびその基礎となる研究は、GRENE北極気候変動研究事業から始まり、北極域研究推進プロジェクトに引き継がれ、2020年度からは北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)で実施しています。