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北極・南極の2025年5月の海氷情報

1.北極における2025年5月の海氷状況

2025年5月の北極の海氷域面積(注1)は、2010年代の平均とほぼ同じペースで減少しました(図1)。5月の月平均海氷域面積は約1187万平方キロメートルで、前年(2024年)よりも18万7100平方キロメートル小さく、衛星観測開始以来6番目に小さい値となりました(図2)。海域別に見ると、海氷域の広がり自体は2010年代平均並みですが(図3左)、氷縁付近では海氷密接度が低く(図3右)、全体として海氷融解が徐々に進んでいることがわかります。特に、ラプテフ海では、昨年11月以降びっしりと海氷に覆われていたものの(注2)、5月に入ってからは海氷密接度が低下しました。これらの海域では、ラプテフ海の東側に中心を持つ高気圧の影響により暖かい南風が入り、5月の平均気温は平年よりも2〜4℃高くなり、海氷融解が進んだと考えられます(図4)。今後の大気循環に伴う気温や風の変化が、初夏の海氷融解の進行にどのように影響するか、注意深く見守る必要があります。

図1:北極海氷域面積の変化(2月1日〜6月30日)。青色実線:2025年(但し、6月4日まで)、金色実線:1979年から2025年までの47年間で5月平均の海氷域面積が最も小さかった2016年、黒色実線:1979年から2025年までの47年間で北極海氷域面積の年間最小を記録した2012年、黒色波線:2010年代(2010〜2019年)平均。縦棒:2025年の年間最大面積を記録した3月20日。海氷域面積の計算には5日平均の確定値を使用した。


図2:5月の北極海氷域面積の変化(1979年から2025年までの47年間)。海氷域面積の計算には5日平均の確定値を使用し、データ数が少なかった1979〜1980年、1982年、1985年、1987年については平均値の計算をせずに欠測とした。


図3:北極における2025年5月の(左)海氷域(海氷密接度15%以上)と(右)海氷密接度の空間分布。橙色実線は同月の2010年代(2010〜2019年)平均の海氷縁(海氷密接度15%で定義)を表している。


図4:(左)5月平均の925hPa面の気温偏差(℃、カラー)と気温(コンター)の分布。(右)5月平均の海面更正気圧(hPa)の分布。気温偏差は、平年(2010年代(2010〜2019年)平均)からの差と定義している。この図では、NCEP-NCAR Reanalysis 1(注3)のデータを使用した。


2.南極における2025年5月の海氷状況

2025年5月の南極の海氷域面積は、2010年代の平均と比べて拡大のペースが遅く、全体として少ない水準で推移しました(図5)。5月の月平均海氷域面積は約933万6600平方キロメートルで、前年の2024年に比べて7万4600平方キロメートル減少し、衛星観測史上では4番目に小さい値となりました(図6)。海域別に見ると、ロス海とウェッデル海では、海氷が2010年代平均の海氷縁付近まで広がっているものの、沖合では海氷密接度が低い状態が続いています。一方、リーセル・ラーセン海とベリングスハウゼン海では海氷域の拡大が遅くれており、ベリングスハウゼン海では3月以降ほとんど海氷が形成されておらず、その状態が5月も継続しています(図7)。こうした局所的な海氷拡大の遅れは、気候変動や大気海洋結合過程と関連している可能性があり、今後の海氷変動を継続的に注視していく必要があります。

図5:南極海氷域面積の変化(2月1日〜6月30日)。青色実線:2025年(但し、6月4日まで)、金色実線:1979年から2025年までの47年間で5月平均の海氷域面積が最も小さかった2023年、黒色波線:2010年代(2010〜2019年)平均。縦棒:2025年の年間最小値を記録した2月23日。海氷域面積の計算には5日平均の確定値を使用した。


図6:5月の南極海氷域面積の変化(1979年から2025年までの47年間)。海氷域面積の計算には5日平均の確定値を使用し、データ数が少なかった1979〜1980年、1982年、1985〜1987年については平均値の計算をせずに欠測とした。


図7:南極における2025年5月の(左)海氷域(海氷密接度15%以上)と(右)海氷密接度の空間分布。橙色実線は同月の2010年代(2010〜2019年)平均の海氷縁(海氷密接度15%で定義)を表している。


注1:海氷域面積
通常の北極・南極海氷域面積の計算では、データ欠損による算出エラーを防止するため、複数日データの平均から算出しています。本記事では、5日平均の確定値を使用しました。2日平均の速報値は、ADSをご参照ください。

注2:北極・南極の2024年11月の海氷情報
https://asic.nipr.ac.jp/info/2024-12-10-1/をご参照ください。

注3:NCEP-NCAR Reanalysis 1 米国環境予測センター(NCEP)と米国国立大気研究センター(NCAR)で開発・提供されている大気再解析データ(https://psl.noaa.gov/data/gridded/data.ncep.reanalysis.html、Kalnay et al. (1996))。

参考文献
Kalnay et al.,The NCEP/NCAR 40-year reanalysis project, Bull. Amer. Meteor. Soc., 77, 437-470, 1996