2021年拡大期予報
2021.10.04 北極海氷情報室、木村詞明(東京大学大気海洋研究所)

- チュクチ海、東シベリア海から大西洋側にかけての海域では平年より遅いペースで、 多島海を除くカナダ側の海域では平年より少し早いペースで海氷が張り出していく見込みです。


青が平年より密接度が大きい場所、赤が平年より密接度が小さい場所を示す。
北極海の海氷域は拡大の時期に入りました。海氷域の広がりの時間変化(図2, 図3)が示す通り、 ロシア沿岸の広い範囲で 海氷域の広がりが平年に比べて遅くなることが見込まれます。 これは、ラプテフ海周辺域を中心とした沿岸域で、海氷が平年より大きく後退したためです。 一方、アラスカ-カナダ沿岸では、チュクチ海、ボーフォート海にまばらに海氷が解け残っており、 海氷域の広がりは平年より少し早くなると見込まれます。


今年は、ボーフォート海からチュクチ海にかけての広い範囲に海氷がまばらに残りました(図4)。 これは、図5の赤、緑色で表された生成から3年以上経った多年氷が解けずに残ったものと考えられます。 この予測計算では、海氷年齢を考慮していないため、チュクチ海周辺の海氷分布の状況がうまく再現できていません。 また、カラ海にも西風による海氷の集積のため海氷が解け残っていますが、それも反映できていません。
北極海の海氷面積は夏の減少時と逆のパターンで増加していく傾向があり、早く海氷がなくなった海域(年)は、秋に海氷が張り出すのが遅くなります。
そのため、ある場所での海氷のなくなる早さと秋の拡大時の海氷密接度との間には相関があります(2017年の秋予報をご参照ください)。
早く海氷がなくなると海面がより長期間にわたって温められ、秋の結氷が遅くなることが要因のひとつと考えられます。
この関係をもとに、5月1日から8月31日までの海氷密接度が15%以下だった日数と10月1日以降の日の海氷密接度との相関関係を用いて今回の予測を行いました。
計算には2003年から2020年までの16年間(データの揃わない2011, 2012年を除く)のデータを用いています。
この予測には人工衛星搭載の国産マイクロ波放射計AMSR-EおよびAMSR2による観測データを用いました。
毎日の予測図は国立極地研究所の北極域データアーカイブでも見ることができます。
北極海の衛星モニタリングや海氷予報、ここで用いた予測手法についてのご質問は海氷情報室(
)までお問い合わせください。
この予測およびその基礎となる研究は、GRENE北極気候変動研究事業から始まり、北極域研究推進プロジェクトに引き継がれ、2020年度からは北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)で実施しています。