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北極海氷分布予報

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2025年第三報

2025.07.18 木村詞明(東京大学大気海洋研究所)、北極海氷情報室

2025年9月10日の予測海氷分布。
図1:2025年9月10日の予測海氷分布。
  1. 1 北極海の海氷域面積は、9月に約442万平方キロメートルまで縮小する見込みです。
  2. 2 ロシア側の北東航路は8月下旬、多島海を除くカナダ側では7月中に航路が開通するでしょう。
2003年以降の最小海氷域面積の年変化
図2:2003年以降の毎年の最小海氷域面積の変化(単位は百万平方キロメートル)。2025年は今回の予測値。
8月1日から9月27日までの海氷分布予測値のアニメーション。
図3:8月1日から9月27日までの海氷分布予測値(白い場所が海氷)のアニメーション。
2025年6月30日の海氷厚分布。
図4:2025年6月30日の海氷厚分布。
北極海の海氷域面積は、9月11日頃に約442万平方キロメートルまで縮小する見込みです。これは2023年, 2024年の最小値よりもやや大きい面積です。ロシア側の北東航路では8月下旬、多島海を除くカナダ側では7月中に、海氷が岸から離れて航路が開通すると見込まれます。

この予報の海氷分布は、6月末の海氷の厚さをもとに計算しました。2007年から2024年までの観測データを使い、各年の「6月30日の海氷厚」と「8月以降の海氷密接度(海面が海氷で覆われている割合)」との関係を調べた結果、6月末に海氷が厚かった場所では、夏になっても海氷が解け残りやすい傾向があることがわかりました。この傾向にもとづいて、今年(2025年)の6月30日に観測された海氷厚から、8月1日以降の海氷密接度を予測しています。

予測に使用した海氷厚は、人工衛星搭載の日本のマイクロ波放射計AMSR-EおよびAMSR2の観測値から、独自の手法で推定したものです(手法に関する論文は現在投稿中で、こちらのサイト:https://egusphere.copernicus.org/preprints/2025/egusphere-2025-3286/で見ることができます)。この海氷厚データは、近日中に国立極地研究所のADS(Arctic Data archive System)から公開される予定です。

現在の状況
2025年7月13日の海氷分布(左:観測、右:予測)
図5:2025年7月13日の海氷分布(左:観測、右:予測)。左側は実際に観測された海氷の分布、右側は第2報で予測していた同日の海氷分布を示しています。白いところが海氷を表しています。
7月に入り、北極海の海氷域が急速に後退してきました。図5は、7月13日時点の海氷分布についての観測値(左)と、第2報で予測した分布(右)を示したものです。全体として、海氷の後退は予測よりもやや遅いペースで進んでいます。


2025年7月13日の海氷分布(左:観測、右:予測)
図6:図5に対応する観測値および予測値の、最近の平均海氷密接度(2007–2024年)からの差。図5の海氷分布から、同日の最近18年間の平均分布を差し引いた差分。赤は平年よりも海氷が多い領域、青は少ない領域を表す。
図6は、図5に示した観測値および予測値それぞれについて、最近の平均(2007~2024年)からのズレを表したものです。赤い領域は、平年よりも海氷が多い場所、青は少ない場所を示します。第2報では、太平洋側のアラスカ沿岸からシベリア西部にかけては海氷の後退が遅く海氷が残りやすい一方で、シベリア中央部から大西洋側にかけては後退が速いと予測していました。実際の観測でも、この予測に沿った傾向が見られますが、アラスカ沿岸の後退は予測以上に遅く、大西洋側の後退は予測よりもさらに速くなっています。また、シベリア中央部のラプテフ海から東シベリア海で、予測よりも多くの海氷が残っている海域があります。

毎日の 予測図 及び 海氷齢(日齢、年齢)は国立極地研究所の北極域データアーカイブシステム(ADS)でも見ることができます。