北極・南極の2024年11月の海氷情報
1.北極における2024年11月の海氷状況
図1は、9月1日から1月31日までの海氷域面積(注1)の変化を示しています。2024年11月の海氷域面積はやや緩やかなペースで増えましたが、衛星観測史上最少を記録した2012年の値を下回る状態で推移しました。 2024年11月の平均海氷域面積は約8.9086百万平方キロメートルで、前年より約0.5095百万平方キロメートル(おおよそスペインの面積に相当)減少し、衛星観測史上3番目に小さい面積となりました(図2)。 長期的には、1年あたり約0.05百万平方キロメートル(おおよそ中国・四国地方の面積に相当)の割合で減少しています。2024年11月の海氷分布を2010年代平均と比較すると、バレンツ海、ハドソン湾、バフィン湾で海氷が少ないことがわかります(図3左側)。 一方、チュクチ海では孤立した開放水面域があるものの2010年代平均より海氷は拡大している様子が確認できます。また、10月の海氷状況(注2)と異なり、海氷密接度(注3)は全体的に高いことがわかります(図3右側)。 今回の注目すべき点は、バレンツ海の海氷が少ないことが挙げられます。初冬のバレンツ海の海氷変動は日本を含む北半球中緯度域の気候変動に影響をもたらすことが指摘されているため(注4)、今後の海氷状況を注視してみてゆく必要があります。


2.南極における2024年11月の海氷状況
図4は、9月1日から1月31日までの海氷域面積の変化を示しています。南半球では海氷が後退する融解期のため、2024年11月の海氷域面積は一定のペースで減少を続けています。 11月上旬には衛星観測史上最少を記録した2023年の値を下回りましたが、現在は同様の海氷域面積となっています。2024年11月の平均海氷域面積は約14.2108百万平方キロメートルで、衛星観測史上2番目に小さい面積となりました(図5)。 ただし、1番目に小さい面積は2023年ではなく2016年で、この年の春先(11月)に南極の海氷域面積は急激に減少し、2017年2月に当時の衛星観測史上最小値(現在は4番目)を記録しました。 海氷域および海氷密接度の空間分布を見ると、2010年代平均と比較してリーセル・ラーセン海やロス海の北側で後退が速いものの、他の海域は同程度であることが確認できます(図6)。 南極の海氷縮小は2月頃まで続くため、海氷域面積の最小値が更新するかどうか注意深くモニタリングを続けます。


注1:海氷域面積
通常の北極・南極海氷域面積の計算では、データ欠損による算出エラーを防止するため、複数日データの平均から算出しています。本記事では、5日平均の確定値を使用しました。 2日平均の速報値は、ADSをご参照ください。
注2:北極・南極の2024年10月の海氷情報
注3:海氷密接度
ある面積に占める海氷の割合(0〜100%)を示す用語である。
注4:ノルウェーの北に位置するバレンツ海の海氷が少ないと、低気圧の経路が北寄りになるため、北極海に温かい空気塊が入りやすくなり温暖化が促進される傾向がある。 一方、ユーラシア大陸上では冷たいシベリア高気圧の勢力が強くなるため、冷たい空気塊が日本に入りやすくなり寒冬になる傾向がある。詳細は下記文献を参照。
Inoue, J., Hori, E.M., Takaya, K., 2012: The role of Barents Sea ice in the wintertime cyclone track and emergence of a Warm-Arctic Cold-Siberian Anomaly, 2561-2568, https://doi.org/10.1175/JCLI-D-11-00449.1